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3丁目の女

 自分は内向的だと思ってたんだけど、まさかここまでとは。
 春の連休に遠出して隣町の大型書店に行こうとしたら、何だか道路に見えない壁があるみたい。どうやってもそこから先に進めない。遠回りしても同じ。ほかの人は普通で、私だけみたい。
 結局、三丁目から出られず。
 何よこれとか思ったけど、出無精だからまあいいか。
 お盆の連休。
 隣町に美味しいって噂のケーキ店ができたのよねと出掛けたんだけど、しまった三丁目から出られないんだっけ。ああ甘い物〜と指をくわえていたら切なそうな男性と出会った。二丁目から出られないらしい。ケーキは彼に買ってもらっちゃった。
 それから付き合うことに。デートは行政区画の境界線を挟んで。公園で読書する私を彼が道路を挟んだ向こうで見守ってくれたり、路上でカラオケする彼を私が公園から眺めたり。向かい合うファミレスと喫茶店の窓際で一緒に食事したり。
——愛と勇気と正義とがバリアを破るぜ、ゴー合体だ♪
 塀に立ち夕日の中で歌う彼。ちょっと良かった。

 そして結婚。新婚旅行はなし。
 すぐにマイホームを建てて、3年。現在、喧嘩中。
「この線からこっちには絶対入ってくるなよ!」
 いつも通りだって。


   おしまい






※500文字の心臓 タイトル競作「3丁目の女」出展作品
 ○×8、△×1、X×1
 正選王受賞作品
by marie_a | 2010-06-04 18:32 | 500文字の心臓
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