人気ブログランキング | 話題のタグを見る
<< 法螺と君との間には ドミノの時代 >>

天空サーカス

 鬼は見上げる。空高く落ちゆく人たちを。
 鬼は見とれる。手を水掻きのようにくねらせもがきばたつき回り恐怖の叫びを上げ豆粒になる人々を。その姿は空々しくもある。
 空は眩しい。人々も眩しい。その不安と恐怖に満ちた表情に心踊らされる。
「おじちゃん、どうしたの?」
 足元からの声。見るとランドセル姿の少女が見上げていた。
「お嬢ちゃんは空が眩しくないのか?」
「ワタシ、別に空に興味ないんだから」
 そんな人攫いの空繰り物語に用はないものと駈けていった。
「いい娘だなぁ」
 俺は空に落ちたかったのに、と大地の鬼。目の前の沸き立つ大釜で水掻きのように手をくねらせもがきばたつく人々につっ突き棒を何度もくれてやる。
「くそっ!」
 突くだけ。こぢんまりとした仕事だ。そこにセンスもワンダーもない。空想するだけ。
 イヤになって見上げた空。わらわらともがく人が落ちる中、ブランコが渡り逆さ虹を描く。
 突き、突き、突き。
 鬼の憧憬は、大釜でもがく人々のくすんだ瞳に空と似た空ろを呼び起こし、ぎぎぎと何かを動かし続ける。

   おしまい





※500文字の心臓 タイトル競作「天空サーカス」出展作
 ○×0、△×0、X×1
by marie_a | 2011-04-19 18:18 | 500文字の心臓
<< 法螺と君との間には ドミノの時代 >>